The story of Naocastle ~チェックインチェックアウト~ 第五章

When you come to the edge of all the light you know,
and are about to step off into the darkness of the unknown,
faith is knowing one of two things will happen:
There will be something solid to stand on or you will be taught how to fly.
- Barbara J. Winter ( writer, speaker and muse to entrepreneurs.


「未知の世界を前にし、崖っぷちから一歩踏み出そうとする時
信じていれば、そこにはしっかりと踏める土台があるか、飛ぶという事を教わる」


快晴のジュネーブに着いてタクシースタンドへと歩いて行き、向かった先は
スイスの国境の近く、フランス国内にあるパブの上に部屋があって泊まれるところ。スイスのホテルは部屋代がバカ高くて、トイレは共同ですが、こういうところに泊まれば値段が4分の1ぐらいになるのです…
実はこの時丁度、コンフェデ杯が開催中で試合をテレビで観戦しながら明日テストを受けるはずのチームの事でジズーからの連絡を待っていました。
そしてそこへ、電話が…


「監督が変わるかも知れへんから、ちょっと問題があって、明日はホテルに残って待機しててくれ」


これがジズーからの連絡でした…
一瞬嫌な予感がしてなんか変やぞ…と思い、貰っていた招待状をもう一度見直してコピーを持っていたシドニーの母に電話。
フランス語が解る人にちょっと見せて内容を確かめてみてくれと頼んだところ…
偽の招待状だった事が判明。
別の選手に来た招待状を名前のところだけを巧妙に差し替えていたみたいでした。
しまった、ミスった。事前にちゃんとチェックして来るべきやった。


でも、ヨーロッパに来てしまったからにはそんな事を言ってシドニーに居るジズーと喧嘩しても、自分にとっては何のプラスにはならないのでここは何も言わずに知らぬふりを通して、「違うチームは、無いんですか?」
等と毎日のようにジズーに電話をする日々が続きました。


「明日はあるから!ちゃんと朝には、ホテルをチェックアウトして、いつでも移動できるように、駅の近くに居てくれ」


この言葉を何度聞いたかわからない。本当に何度きいたことか。繰り返す事といえば、荷物をパックして、毎朝10時にチェックアウトし、スーツケース、ボストンバッグ、リュックサックを持ち歩いて、駅の近くにあるバス停で夕方の6時まで連絡を待っている事であった。
スーツケースをガラガラとひきながら昼飯を食いに行く時以外は、一日中バス停で携帯とにらめっこ。
じ~っと携帯を見ながら、通り過ぎるバスを眺めたり、ペチャクチャとお喋りをしながら、旅行の予定などを立てている人達を眺める時間は非常に長く感じました。
忍耐だけはマジ鍛えられたものです。ノイローゼになるかなって思ったで、ほんま…


かかってくるはずも無いジズーからの電話。
痺れを切らして、シドニーの時間では思いっきり朝の2時とかなんですけど、そんなのは構わずいつも結局こっちから電話をして話すと、毎回巧妙に違う言い訳を使いながら、
もう一晩チェックインしてくれ、でも明日は絶対にテストがあるからの一言…
と言う事で、いつもホテルにブラブラと戻り、パブのおばちゃんに、「いや~やっぱ、もう一晩お願いします!でも明日は出るから」、見たいな感じで。
週末以外は、こんな事を毎日続けていて、ホテルの人もそんなにどうせ毎日戻って来るんやったら、なんでチェックアウトすんねん?って絶対思ってたでしょうね。
あほな日本人やな~とでも、話題になってた可能性は大でしょう。笑


騙された…との思いで胸ははちきれそうになり、4ヶ月の猛練習と時間をどうしてくれるのだと思い、空しく感じて、めちゃくちゃ悔しくて、そして悲しかった。


せっかく貯めてきたお金も、3週間近くも経ってくると限界というものが来て悲しくも、
テストすら出来ずに帰らなあかんという思いが頭の中をよぎり、かなりメンタル的にもきていたので、怒りが溜まってジズーに電話を一本…


「帰るわ!マジふざけてんなお前!今度、もし会った時はただじゃすまんからな。覚悟しとけよ。」


「どんだけ、待ってるとおもってんねん!?」


「待ってもお前の事やったら、どうせテストもないねんから、明日帰るわ!!」


ってみたいな感じで、“ファッキング”という悪い言葉を、何度使ったか憶えていないが一方的に話してガチンと切った。


数分後…
プルル、プルル…
電話が鳴り、出ると相手は、何とあのジズーでした。


なんやねん!?ってな感じで出たところ、「明日電車で、14時間離れてるロリアンと言うフランスの2部のチームが見てみたいと言ってるから、行ってくれ」と言っている。
またまた、いかにもありそうな声の調子で話しかけてくる。
「いや、もうええわ。どうせ、嘘やろ?」
こっちもやけっぱちでした。


返ってきた返事が、
「嘘じゃない。ただ、守って欲しい事が一つある。お前はあくまで日本五輪代表選手ということで話を進めている。
そして今コンフェデ杯で日本代表候補として、フランスに来ていて最終メンバーから外されて残っている事になってるからその辺はうまく頼む。」


は?俺に嘘をつけと???


☆ (実際のところ、ヨーロッパのこういうチームには世界各国のエージェントから、毎日ファックス、メール、電話等、何十本と入る中で日本人選手が、日本代表にも入っていなければ、即効電話を切られて相手にもされないのがが現実。嘘ぐらいつかないと、テストすら受けられなかった。しかし、ねええ…)


「あと、それから…」


え?まだなんかあるんかい?


「電車で、14時間離れてるところにあるから、くれぐれも間違わへんようにな。ほんでもって、一応テスト期間は朝の練習をとりあえず一回見てから決めるらしい。この練習であかんかったら、帰らせられるから、しくじんなよ!俺のエージェントとしての名前もかかってるからな。」


いやあんたの名前とかはどうでもええけど、14時間かけて移動して2時間だけの練習とかやったら最悪やんけとか思いながら、何度目になるわからない荷物のパッキングをすませて、寝台列車の切符を買いに行く。


乗る前に何度、列車とプラットフォームを確かめたか。英語が大嫌いで、英語を喋ると相手にしてくれないフランスでは、頑張りながら本を見てフランス語で駅員に何度も確かめて列車に乗ったものの、やはり心配で外を見ながらずっとチェックしてました。
はっきり言って何をチェックしていたのかわからないのですが…駅名をみたところで、合ってるかどうかなんてさっぱり…
ただ、14時間違う方向行ったら普通にヤバいなって思うと寝れるにも寝れず。


なんていう駅か忘れましたけど、同じコンパートメントに人が入ってきて。3段ベッドが並んでいて6個ベッドがある狭い場所なので、自然と会話を始めると…
ラッキーな事にその人が英語を喋ってくれたので、この電車で合ってますか?と聞いたところ、「大丈夫、ちゃんと着くで」、と、英語が大阪弁に聞こえたくらい、ほっとして…。少し話した後、朝まで思い切り爆睡。


そしてロリアンにやっと着いて、また少しトラブルがあり、2日間ホテルで待機なんですが。話を早くすればテストには行けます。


そして、クラブの関係者がもう一人のテスト生、BAKARY KONE


☆ (彼は、この後ロリアンで契約を交わして、2006年のワールドカップにはコートジボワール代表として試合にも出場。対オランダ戦で、スーパーゴールを決める。この試合をシドニーで見ていて、朝の4時ぐらいの出来事だったのですが、即効眼が覚めて鳥肌が立ちまくったのを憶えています。)


と一緒にホテルまで迎えに来てくれて、車に入った瞬間クラブ関係者から最初に言われた事が、「日本五輪代表?それで、コンフェデ杯の関係でも来てた?」


「ん?あ、ああ、そうです。」と言ってさりげなく視線を窓の外にそらせた。
別に大して見てもしない外の景色を見ながら。「さっさと話題変えろよ!!」
なんて思いながら、車は練習場へと。


クラブについての第一印象。ヤバイ。スーパープロフェッショナル。
雰囲気も施設も最高。ロリアンの町はなんか僕が夢見てきたような町並みで、ほんまよかったです。


朝の練習メニュー。ビープテストと、サッカーテニス。
ビープテストとは、レベルが上がる毎にビートが早くなり、そのビートに合わせながら
20m毎ある、マーカーに辿り着きながら、体力の限界が来たり、ビートに間に合わなければその時にストップしたレベルを記録される体力テスト。


ロリアンに着いて、今までの怒りをここで思いっきりぶつけてやるわ!と思いながら、ビープテストが始まりました。
今まででも、最高はレベル16ですが、この日はマジ限界まで走りました。
よくフランス語が聞き取れへんかったけど、レベル20ぐらいまで行ってたと思います。
ほんま限界まで走りました。全体で2位の結果。


そして、サッカーテニス。パートナーはKONE.
これも、対戦した相手に勝ってとりあえず午後の練習にも呼ばれる事に…
こうしてキャンプに出発する前の最後の練習まで1週間近く、参加する事になりまし
た。


しかしキャンプでは他の選手もテストで招待していて、その選手らも見たいのでお前は連れて行けないと、最後の練習で監督に呼ばれて言い渡されました。
外国人枠が多分埋まるだろうという事で、今は契約は無いだろうという返事を貰いながらも、お前はいいものをいっぱい持っている。今後もお前の代理人と連絡を取るし、頑張ってくれと言われて少し自信になりました。
元フランス代表のPATRICE LOKO や、セネガル代表のDFで DIOP やったかな? みたいな選手がいる中でそこそこ出来たのは嬉しかったです。


もちろん、みんなめちゃくちゃうまかったけど、何とかついていけたし良いところも出せたと思います。
ヨーロッパに来て、契約してプロになる事が夢でしたがもう一つ来た理由は前章でも述べたとおり、自分の実力でどこまで通じるんやろう?っと言う事を確認したかった事です。


ジャッキー・チェンのジャッキーと言うニックネームがキャプテンから付いて、やたらと周りの選手から気に入られたのもあったのですがここの練習はほんま楽しくて、毎日練習に行くのが楽しみでしようがなかったです。


このチャンスをくれた事に対しては、ジズーに感謝しています。
だが現実話、契約には至らなかったので又安いホテルの方に戻る事に…
テスト期間、ホテルと、食事代は、クラブが出してくれてたので、どんだけ幸せやったか…毎日食いまくった…。


でもほんとにお金がなくなって来たのでジズーにはやっぱり帰らなヤバイと伝えました。
でも、スイスの1部に最近オーストラリアの選手を送ったので、そのクラブの返事が来るまで待ってくれと言うのと、ジズーも3日後にはヨーロッパに来ると言うので大変あつかましいのは承知の上、親の知り合いの知り合いにジュネーブに住んでいる家族がいるという事でそこに1週間ほど泊まらせて頂く事になりました。
そのジュネーブの家族が旅行に出かける予定を立てていたのですが、その際にはわざわざ知り合いにまで連絡をしてくれ、旅行から帰ってくるまでの間はその方にも大変お世話になりました。


イタリア人の気さくな御主人と、日本人の優しい奥さんに、めちゃくちゃ可愛い小さい娘さんがいるジュネーブ家族にはほんまお世話になりました。感謝の気持ちでいっぱいです。


そんな中、連絡がつかなかったジズーから、ジュネーブ空港に着いたという電話が入ります。その時でもまだ騙された事で怒りがあった僕は、向かう電車の中でとりあえず一発ぶん殴ってやろうなんて思いながら空港に着き、ジズーにあった瞬間…、これまたバカでかいバッグを提げてきて、ニコニコと歩み寄って来て得意のスウィートトークで話しかけてくるジズーは、なぜか憎めないキャラで結局殴れませんでした。


そして「今から、以前電話で話していたスイス1部のチームの連中たちに会いに、ヌシャテルという場所に行くから、連絡を待っていてくれ」との事で、その場は別れ…


そしてロリアンで評価が結構高かった事もあり、テストに来てもいいと言う事でヌシャテルへと出発。
1日目の練習前、ジズーからの一言…。


「Hey Naoki, don't fuck up!」
おい、なおき、絶対しくじんなよ!!


聞いてた、オーストラリア人選手のジョーは爆笑。
なんやその励まし方!?見たいな感じで、ほっといて行くぞ!なおき。ってな感じでスタスタへと練習場へ。
ロリアンの後って言うこともあり、少しサッカーのスピードが遅く感じ、かなり余裕で出来て正直言って最高に調子が良かった。
監督もちょっとびっくりしたらしく、ジズーも上機嫌。
次の日にあった練習試合でもまずまずのプレーで、話は一気に進みクラブハウスで会長達らとミーティング。


仮契約を目の前に出してきて、条件などもある程度提示されたのですが、監督はもう少し見たいとの事。
ここでジズーが、
「わかりました。ありがとうございます。でも、なおきはトゥーン(同じくスイス1部のチーム)からも話が来ていて、待っていられないので、明日トゥーンへと出発します。又連絡します。」
と、こっちへ向いて、オイなおき行くぞってな感じで、席を立とうとする。


この時はもちろんフランス語が全くわかってなかったのであまり状況を把握できていなく、
オイオイ、大丈夫か?と僕は思ったのですが、
焦った会長達らは、なんと…


「わかった。今晩、仮契約をしよう。正式な契約は、後日という事で。」


もちろん、トゥーンから話があるなんていうのは大嘘で、ジズーの見事なはったりですが、結果的には、ナイスプレー!!
ということで後日、晴れてスイス1部のヌシャテルザマックスとシーズンが始まる数日前に3年契約を交わす事になったのです。
これまた日本人初と縁があるのか、スイス1部リーグの日本人初でもありました。


☆(実は仮契約が決まる晩、急にロリアンからも電話が入り3カ月の短期契約の話もありました)


色んなハプニングがありながらも、掴んだ幼い時からの夢。
夢が叶って、なんて幸せやねんと感激しながらもそんな事に浸っている暇もなくヨーロッパでプロとしての生活がスイスの町、ヌシャテルで始まっていくのでした…


海外挑戦を視野に入れた選手育成

CommentBox

面白かったです。僕もサッカーじゃないですが、ジズーのように調子のいい輩にひどい目にあわされたことがあるので、今矢さんがファッキンを連呼して怒った気持ちがよくわかります。

大切なのはいつか来る「その時」のために常に高い意識で努力することですね。いつもモチベーションの上がるお話ありがとうございます。

投稿者 BGS GEEK  : (2010年08月16日 12:11)

BGS GEEKさん

ありがとうございます。
喜んで頂き何よりです!!

また今週もがんばります。

投稿者 Nao  : (2010年08月16日 22:00)

むちゃくちゃおもしろい!石垣島からロシアに密航したラサール校生なみにむちゃくちゃだあ。
でもすごく根性ありますね。
文才もあります。臨場感がある!

投稿者 ぴぴ  : (2010年08月16日 23:55)

ぴぴさん

ありがとうございます。
根性はいくらあっても足りないですよ!

こんな文章でいいのかなって思いながらいつも投稿しています。笑

投稿者 Nao  : (2010年08月17日 09:50)

みんなに読んでもらいたいストーリですね。
で、ホテルとバス停の往復の毎日の時は、
フィジカルトレーニングは、どうしていたのですか?
メンタルトレーニングは、鍛えられそうでだけど・・・・

投稿者 ぴっかぶー  : (2010年08月18日 09:06)

ぴっかぶーさん、

こんにちは。チェックアウト前か、もう一度チェックインした後に走りに行っていましたが、大した事は出来ませんでした…
4ヶ月間、せっかく作ってきたコンディションも落ちてきて腹が立ちました!笑

メンタルは間違いなく鍛えられました。笑

投稿者 Nao  : (2010年08月18日 10:48)

第5章 身を乗り出しながら読み始め、聞いては いたものの、
文にするともっと情景が浮かんで、笑いがあったり、いろんな想いが伝わって そして最後の「色んなハプニングがありながらも、掴んだ幼い時からの夢。」 ジーンときたで!目がうるっちゃたよ。

子供達にたくさん持って欲しい「それぞれの夢」Then「叶えて欲しいその夢」 だね!!!!

次の章の展開 待ってます。

PS ジズーに会ってみたい。笑

投稿者 ROBI10  : (2010年08月18日 15:16)

ROBI10さん

ジズーは今頃何してるんでしょうね?笑

契約したその日は僕もジーンときました。

そうですね。子供たちにはたくさんの夢を描いて欲しいです。
そして大人になっても子供の時のように夢を描く事が大切だと思います。笑われてもいいから、子供のようにはしゃいで、これもできる、あれもできるなんて思えると人生楽しいはずです。

投稿者 Nao  : (2010年08月18日 16:16)

とうとうヨーロッパに来ましたね!

ずっと読んでて、早く続きが読みたいと期待してたんですよぉ。

それにしても、すごい忍耐力。ヌシャテルの選手のときも大変だと思ってたけど、その前には予想をはるかに超えたことがあったんですね。

でも、Naoさんの臨機応変さはやっぱりヨーロッパ、特にラテン語圏(だけじゃないけど)では必須な点だから、結果を出せた1つの要因かもしれませんね!?

続きを待っています!

投稿者 sweetchiaki  : (2010年08月20日 12:36)

sweetchiakiさん

とうとうヨーロッパに着きました。笑
ここからはスイスの話がたくさん出てきます。

頑張って書いています!

投稿者 Nao  : (2010年08月20日 14:41)